福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)301号・昭26年(ネ)305号・昭26年(ネ)612号 判決
控訴代理人等はいずれも「原判決を取消す。被控訴人の請求はこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、援用、認否は、控訴人吉村弘和代理人において本件仮登記並びに本登記は事実に吻合しない無効の登記であると述べた外、すべて原判決事実と同一であるからこれを引用することとする。
<立証省略>
三、理 由
被控訴人が訴外坂井石雄所有にかかる別紙目録<省略>記載の不動産につき昭和二十二年十二月四日福岡司法事務局受附第一二三八二号を以て同月三日附売買の予約に因る所有権移転請求権保全の仮登記をなし、次いで昭和二十三年七月二十日同事務局受附第七一三二号を以て同物件につき昭和二十二年十二月三日附売買に因る所有権取得登記を了した事実、右物件につき控訴人吉村が同事務局昭和二十二年十二月二十二日受附第一三〇一〇号を以て抵当権設定登記を、控訴人橋本が同事務局昭和二十三年六月三日受附第五六九二号を以て抵当権設定登記を、控訴人秋吉が同事務局同年六月二十九日受附第六三八一号を以て賃借権設定登記を夫々経由した事実はいずれも当事者間に争がない。而して成立に争のない甲第三号証乃至第九号証(内第七号証は一、二)によれば被控訴人は訴外坂井石雄、坂井萬を連帯債務者として昭和二十二年十二月三日金十八万八千円を弁済期を昭和二十三年二月末日の約で貸付け、同時に右債務者が期日に弁済しないときは右不動産を被控訴人に譲渡し、売買に因る所有権移転登記をなす旨の停止条件附所有権移転の契約を締結し、右契約に基く被控訴人の権利保全のため前示仮登記がなされ、その後右債務者等が期限に債務を弁済しなかつたので本件不動産の所有権は被控訴人に移転した結果前記所有権取得の本登記がなされたものであることが認められる。(但し控訴人吉村との関係においては右事実は当事者間に争がない)原審証人坂井萬の証言中右認定に副わない部分は措信し難く、他にこれを左右する証拠はない。そうすると右仮登記並びにその本登記が事実に吻合しない無効のものであるとする控訴人等の抗弁は理由がない。
よつて右のように停止条件附所有権移転の契約を締結し、これが請求権保全の仮登記がなされた場合における登記の効力について検討するのに、前示条件附所有権移転の契約における条件が成就し、本件不動産の所有権が被控訴人に移転したのは前記消費貸借契約の弁済期の翌日である昭和二十三年三月一日であるから、その以後においては本件請求権保全の仮登記の効力は不動産登記法第二条第一号の物権保全の仮登記のそれと何等異なるところがないから、同日以後本登記のなされた同年七月二十日までの間において控訴人橋本及び同秋吉のなした前示抵当権及び賃借権の各設定登記は、被控訴人の所有権取得の本登記の対抗力が遡及する結果、その効力を失つたものであることは多く説明を要しないところである。問題となるのは本件仮登記後物権が現実に変動するに至るまでの間の効力についてであるからこの点につき考察するのに、なる程被控訴人は条件の成就によつて始めて本件不動産の所有権を取得したものであつて、後日本登記がなされたからといつて右条件成就以前たる仮登記の日に遡つて所有権取得の効果を生ぜしめるものでないことは控訴人等主張の通りであるが、請求権保全の仮登記そのものの効果として、仮登記後未だ物権変動を生じない間に第三者が取得した当該不動産上の権利は、仮登記に基く本登記がなされるときは、その対抗力と相容れない範囲において効力を失うものと解すべきである。
けだし請求権は相対的効力を有するに過ぎないから一度びその目的たる不動産について第三者が物権を取得するときはその請求権の実現が不能となるのを本来とするけれども、請求権保全の仮登記は恰もこの運命を防ぎ止める作用をなし他日右の如き障害が生ずることがあつても尽くこれを排して以て当該請求権自体の実現を可能ならしめる素地を予め成し置くものであつて、いわば相対権たる請求権をしてこの関係においては絶対権化せしめるものであると解するのが相当である。(昭和八年三月二十八日言渡大審院判決、昭和十二年二月二十六日言渡同院判決参照)従つて本件仮登記以後右不動産の所有権が被控訴人に移転する以前になされた控訴人吉村の前示抵当権設定登記もまた、後日前記本登記がなされた以上、その存在の余地なきに至り無効に帰したものといわなければならないのであつて、これは本登記の対抗力が仮登記の日に遡及する結果ではなく、請求権保全の仮登記そのものの効果として然るのである。
よつて控訴人等に対し夫々前示抵当権設定登記又は賃借権設定登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は正当であるからこれを認容し、右と同趣旨の原判決は相当であつて控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 小野謙次郎 竹下利之右衛門 中園原一)